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8月7日の土曜日。全国から200名ほどの若手陶芸家、陶芸アーティストの卵たちが集まったイベントが開催された。「IKEYAN2010」。主宰したのは、へうげもの作家として昨今注目を浴びている陶芸アーティスト青木良太さん(土岐市在住)だ。青木さんが呼びかけ人となり、秋田から佐賀にまで全国から若手アーティスト達が集まった。このイベントは、普段は窯を相手に孤独な作陶作業に励む若手陶芸アーティスト達の交流が目的で2008年より開催されている。
○IKEYANから世界へ
しかし、200名あまりの若手陶芸アーティストの方々が全国から真剣に集まってきたのは、ただ交流を深めたいから、という理由だけではない。さらにビッグなプレゼントがあるのだ。それは、この「IKEYAN」で行なわれるコンテストで上位10名に入賞すれば全国のギャラリーで作品展示が出来る、という登竜門にもなっているのだ。ギャラリーで高い評価を獲得すれば、一気に人気作家への道が続いているのだ。
現在人気の陶芸作家、陶芸アーティストの方々でも、数年前あるいは数十年前は、平日はアルバイトをし、空いた深夜や週末に作品を造り、水道代の捻出にも苦労するなど金銭的には貧困のどん底を味わった人も少なくない。また、そうしたどん底を経験することで人間の幅が広がり、より優れた作品造りにつながりアーティストとして生計を建てていく夢へのエネルギーになるという。
われらが多治見・土岐・瑞浪は陶磁器の市場シェアNo1と言ってはいるものの、若手作家の育成や業界発展のための地域ブランド作りやコンテストが充実しているか、と言えば疑問が残る。割引中心、お値打ち中心の「焼き物祭り」も大事だが、地域住民だけでなく、全国に届くイベントやコンテストを通じて多治見・土岐・瑞浪といういわば「『陶器の聖地』美濃から世界へ」といった活動にも取り組んでゆきたいと考えている。そこで、今回はIKEYANを勉強させてもらったのだ。
○たち吉さん
そして、今回、IKEYANをご案内くださったのは、たち吉の伊藤さん。たち吉さんは、この産地から全国へ届ける陶磁器流通最大手の1社。そして、伊藤さんはこれまで数多くの作陶アーティストと接して若手アーティストを育てようという活動を公私問わず行なうプロデューサーでもあり、熱心な営業マンでもある。
伊藤さんがお付き合いされているのは、上は大御所から青木さんのような若手作家、はたまた陶芸を志す芸大生や高校生など幅広い。作陶アーティストたちからの信頼も厚く、人気作家に育てた名伯楽のような方だ。今回、多治見であるイベントを準備しているのだが、そのアドバイザーとして伊藤さんにお話をうかがったのだ。
伊藤さんによると、陶芸家には人生の岐路が3つポイントあるという。
1、学校や研究所を卒業して数年間かけて作陶で一人前になり生計が建てられるか
2、生計が成り立ち、結婚し子供ができた際に、養育費、特に、教育費を捻出できる資産と信用を築けるか
3、中高年を過ぎ、気力体力が落ちた時期に、熱い窯の前にして、さらに何時間も作品造りに情熱を注ぎ続けられるか
こうした3つの岐路をクリアできた人だけが一流作家として存在が許されるのだとか。
現在、アマチュアも含めて陶芸家、陶芸作家志望者と言う人たちが何人くらい居るかというと、正式な統計などはないという。当日、会場でお会いした電気ろくろと小電気窯を販売で市場シェアNo1の日本電産シンポの栗山さんによると、「毎月200個ほど売れています。10年ほどで買い替え需要もあるので、全員が新規ではないんですけどね。でも、最も売れたのはバブルのとき。毎月500個以上売れてました」と言うから、今でも年間2000名以上、そして、延べにすれば、プロアマ合わせてざっくり3万人、と言ったところだろうか。
そんな3万人の中から、売れっ子の作陶作家になれるのは、ほんの一握り。人生は長いから、息の長いロングセラー作家への道はそれよりさらに少ないという。それが淘汰であり、芸の道は厳しくホンモノだけが残る世界だ。優れたアウトプットを行なうためには、一定量のアウトプット量が必要になる。多治見・土岐・瑞浪が「陶磁器の聖地」と言われているのは、多くの優れた作家、メーカーの方々が日々作品、製品を多数世界へアウトプットしていたからで、その絶対量が必要だ。
地場産業の復興、というテーマでの地域おこしが必ずしもうまくいかない事例も多いなか、IKEYANのやり方は、非常に参考になる事案だった。今後、実施を予定している地域イベントへの参考としたい。

![週刊 ダイヤモンド 2009年 4/25号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/61kfrDNr7nL.jpg)
